麻の歴史と
未来への資源へ
麻は人類の歴史と切っても切れない関係があります。
その起源は紀元前3万4000年前のグルジア(ジョージア)に遡り、世界最古の繊維であるリネンが発見されたことで明らかになりました。
人類が麻を利用し始めたのは、旧石器時代にまでさかのぼると考えられています。
確かな証拠は乏しいものの、いくつかの旧石器時代の遺跡から、麻を使った可能性がある繊維が出土しているためです。
チェコ共和国のドルニベストニツェ洞窟遺跡から発掘された、約3万年前の旧石器時代人の遺体に付着した繊維。
この繊維は現代の分析技術で調べた結果、麻である可能性が高いことが分かっています。
また、シリアのムレベット遺跡からは、約1万年前の繊維製品が出土しており、その一部が麻製品である可能性が指摘されています。
ただし、確実な同定は難しいとされています。
旧石器時代の人類が野生の麻を偶然採取し、何らかの用途に利用していた可能性は十分にありますが、体系的な栽培や加工を行っていたかどうかは不明です。
狩猟採集民が麻の存在を認識し、生活の一部に取り入れ始めた時代だったと考えられます。
人類が農耕を始めた新石器時代に入ると、麻の利用は飛躍的に進展します。
各地の遺跡から、新石器時代の麻利用を示す確かな痕跡が相次いで発見されています。
その代表例が、ジョージア共和国のショムテペ遺跡です。
ここからは約9,000年前の新石器時代に遡る、麻の繊維状と種子状の明確な痕跡が出土しています。
さらに、麻を加工するための石臼なども見つかっており、当時の人々が麻を採取し、意図的に加工して利用していたことが裏付けられました。
麻やCBDについてはこちら
紀元前8000年頃には、チグリス・ユーフラテス川流域で麻の利用が広まったとされています。
この「二大河の国」は世界最古の文明の発祥地と言われ、麻の活用を開始した人類にとって重要な地点でした。
中央アジアの遺跡からも麻の種子や繊維が見つかっており、
この地域が最古の麻栽培地の一つと考えられています。
気候と土壌に恵まれたこの地は、麻の起源地であると共に、
その後の長い期間に渡り改良と栽培の中心的役割を果たしてきました。
中央アジアの古代社会は、麻を生活のあらゆる側面で利用していました。
繊維は衣料、建材、釣り糸に、種子は栄養価の高い食料、灯油、薬用に加工されるなど、
麻は多目的な植物資源として活用されていたのです。
考古学的証拠から、この地域が麻の利用発祥地の一つであることが裏付けられています。
トルコ東部のカヤン遺跡からは、約7,600年前の新石器時代の麻繊維が出土しています。
この繊維は木片の上に付着していたもので、当時の人々が麻繊維を何らかの用途で使用していた形跡と考えられています。
中国の黄河中流域においても、紀元前6000年頃の新石器時代の遺跡から亜麻の種子が多数発見されています。
黄河文明の人々がこの頃からすでに麻を栽培していた可能性を示す発見だそうです。
このように、世界各地の新石器時代の遺跡から、麻の繊維や種子、加工の痕跡が相次いで発見されていることから、この時代に入ると麻の利用が本格化し、人類社会に不可欠な資源として定着していったとの声があります。
旧石器時代から新石器時代にかけて、人類と麻との関係は大きく変化しました。
狩猟採集民が、定住農耕民へと移り変わる中で、麻も人類社会に欠かせない資源として上手に活用していたことがわかります。
さらにエジプト第一王朝時代の記録には、麻布に関する記述が残されており、
英国博物館にその遺物が保管されていることから、これらの地域が麻利用の中心地であったことが裏付けられます。
麻は古代の主要文明においても、重要な位置を占めていました。
古代中国では、麻は"五穀"または"五常"と呼ばれる五大穀物の一つに数えられ、食料、衣料、医療など生活の基盤として欠かせない存在でした。
麻布は夏服地として最適とされ、麻の種子は健康食や油の材料に、麻の茎は繊維製品の原料になるなど、あらゆる部位が活用されていました。
中国の古典医学書『神農本草経』には、麻の種子や油が消化を助け痛みを和らげる効果があると記載があり、麻は重要な医療資源と位置付けられていました。
麻の栽培と加工技術も高度に発達しており、各地で麻工場が営まれ、麻紐産業が発達するなど、麻は経済的にも重要な役割を担っていました。
麻やCBDについてはこちら
新石器時代に引き続き、青銅器時代(紀元前3500年頃~)にも麻の利用は広範囲に広がっていったと考えられています。
メソポタミア地域のシュルッパク遺跡(紀元前3000年頃)からは、麻の種子や繊維が多数出土しています。
この地域の人々が、この時代に麻の栽培と加工を本格的に行っていた形跡があります。
一方の古代インドでは、ヴェーダ聖典に麻(サンスクリット語で「バンガ」)の記述が見られ、精神的・宗教的な意味合いが強くありました。
ヒンドゥー教の神シヴァは麻を愛し、麻は瞑想や宗教儀式で使用される神聖な植物とされていました。
参加者はこれにより意識の変化を経験できると考えられていたとされています。
また、インドの伝統医療アーユルヴェーダにおいても、麻は鎮痛剤や鎮静剤、抗炎症剤として使用されていたとされています。
不眠や頭痛、消化不良などさまざまな病状に活用され、重要な医療資源としての地位を確立していたとされています。
麻布、ロープ、船の帆、書籍の紙(パピルス)など、あらゆる用途で麻が重宝
されていて、ミイラの包帯にも麻が使われていたことが分かっています。
さらに、ローマ人の日常生活用品にも幅広く利用されていました。
このように、古代の主要文明圏においては、生活の基盤を支える重要な資源として、その利用が極めて広範囲に及んでいたことがわかります。
都市文明の発展と共に、麻の利用は一層進展を遂げていたとされています。
ヨーロッパに目を向けると、中世において麻産業が大きく発展しました。
民族の大移動の影響で亜麻の栽培地域が広がり、麻は重要な換金作物となっていったのです。
フランドル地方(現在のベルギー、オランダ、北フランス)が中世ヨーロッパの麻産業の中心地として栄えました。
この地域では14世紀頃から麻の精製、織物産業が隆盛を極め、高品質な麻製品で知られるようになりました。
一方で、ドイツ、スカンジナビア諸国、ロシアなどの寒冷地域でも麻栽培が盛んとなり、民族衣装の材料や日用雑貨に麻が広く使われていきました。
中世ヨーロッパでは、麻が重要な換金作物であると同時に、洗練された麻産業が発達したことで、上質な麻製品も生み出されていったのです。
麻は単なる日用品にとどまらず、ファッションや芸術品としての側面も持つようになってきました。
18世紀後半に始まった産業革命は、麻産業にも大きな影響を与えました。
紡績や織機の機械化が進み、麻製品の量産体制が整備されていきました。
しかし一方で、木綿の機械生産が先行したため、麻産業は相対的に遅れをとることになります。
価格面での競争力が落ち、麻布は次第に衣料用途から姿を消していきました。
かわって、麻は帆船の帆やロープといった海運用途で、重要な地位を維持し続けました。
また、麻紙の原料としても麻は重宝され、伝統的な用途での麻需要は根強く残りました。
産業革命を経て麻産業は大きく変貌を遂げましたが、麻自体の価値は依然として認められ続け、特定の分野では活用が持続されていったのです。
産業革命を経て、麻は大量生産が可能となり、商業的価値が高まりました。
しかし20世紀に入ると、麻の一部の利用が薬物規制の対象となり、その需要は落ち込んでいきました。
第二次世界大戦後は、麻の栽培が衰退し、従来の麻産業は影を潜めていった様子がうかがえます。
一方で合成繊維の発達により、麻に代わる新しい素材が生み出され、麻に代替されていった面もあります。
しかし近年、環境保護の意識の高まりから、
再び麻の持つ持続可能性が注目を集めつつあります。
麻には次のようなメリットがあります。
このような環境への優しさから、麻は再生可能な資源として今日では繊維製品、建築資材、紙、バイオプラスチックなど様々な用途で活用が広がりつつあります。
さらに、麻由来の化粧品、健康食品、そして医療分野での新たな可能性も探られています。
伝統医療での利用に加え、近年の研究では麻の有効成分が鎮痛・抗炎症作用、抗酸化作用、神経保護作用を持つことが明らかになってきました。
治療薬や医療用麻への期待が高まっています。
実際に、一部の国や地域では既に産業化が進んでおり、経済的に重要な位置を占めつつあります。
産業の発展により、環境保護と経済発展の両立という視点を持つこともできるとの事です。
私たち一人ひとりが、麻の持つ価値と可能性を正しく理解し、積極的に活用していくことが何より重要です。
長い歴史から学んだ知恵と最新の科学技術を掛け合わせることで、麻は持続可能で豊かな未来社会を実現する上で大きな力となることでしょう。
人類の長い歴史を支え続けてきた麻は、これからも私たちの生活に多様な恩恵をもたらすことができます。
過去から現代、そして未来へと連なる麻の価値を受け継ぎ、適切な管理と利活用を行うことで、緑の未来が切り拓かれていくことでしょう。
CBDについてはこちら